こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前回、漢籍の韻書について見てきました。代表的な韻書のひとつとして、「經部・小學類」ではなく「子部・類書類」に収められているものですが、清代の『佩文韻府(はいぶんいんぷ)』という図書があります。これは古今の書物の中から2~4字のワードを集めてきて、末尾の文字の韻の順番に並べたものです。漢詩を作る場合、句末の字で押韻するわけなので、もともと詩作の実用のために作られたものですが、古典の語の用例を収録した最大級のものとして、「類書」として用いられることが多いので、そのように分類されます。
この『佩文韻府』106巻も、前々回に触れた『康煕字典』と同じく、康熙帝の命により、大臣の張玉書と陳廷敬らが関与して編纂されたもの(ちなみに「佩文」というのは康熙帝の書斎名)ですが、こちらの場合は筆頭の纂修官である「蔡升元〔ほか〕纂修」とするのが通例です。実際に目にする刊本は、汪灝(おう・こう)らによる「拾遺」106巻が附されているものが多く、日本でも明治期に入ってから何種かが刊行されています。
江戸時代の日本で音韻引きの漢籍の類書としてポピュラーだったのは、『圓機活法(えんきかっぽう)』という書物で、和刻本は菊地耕斎(きくち・こうさい)の訓点を附したものが何度も印行されています。構成は「詩學活法全書」24巻と「韻學活法全書」14巻から成り、後者が106韻から引けるかたちになっています。この本については、各巻ごとに巻頭のタイトルが細かく変わっており、それぞれで書誌を作成し、題簽にある『圓機活法』をセットの書名として処理するのが適切かもしれません。
「類書」というのは、作文・作詩のための用語集というのがその起源ですが、多くの書物から事項や語句を抜き出して分類配列するということで、一種の百科事典と位置づけられます。特定のジャンルについてのものは当然そこに分類されますので、「子部・類書類」に入れられるものは基本的に網羅的な性格のもので、したがって相当大部になるものもあります。
ただ、以前、『蒙求』という書物が、流儀によって「子部・類書類」に分類されたり「子部・雜家類・雜纂」に分類されたりすることがある、と述べたように、どういうものを類書とするか、捉えかたによって多少判断が揺れるところがあります。『東京大學東洋文化研究所漢籍分類目録』でいずれも「子部・類書類」に分類している、『永嘉先生八面鋒(えいかせんせいはちめんほう)』(宋・陳傅良撰)・『五雜俎(ござっそ)』(明・謝肇淛撰)・『唐詩金粉(とうしきんぷん)』(清・沈炳震撰)といった書物は、それぞれ「史部・職官類・官箴」「子部・雜家類・雜説」「集部・總集類・各代之屬」に分類されている場合もあったりします。