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折紙を使って―和漢古書の特殊な装丁(1)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

和漢古書の装丁については、以前、主要なものについて触れ、昨年も「折帖」について書きましたが、それらで見てきた以外のレアケースのものも存在します。今回はそうした、各種参考図書等で言及されている特殊な装丁について見ていきたいと思います。

「折り紙」というと、おなじみの正方形のカラフルな紙(およびそれを用いた遊び)のことですが、古文書学で「折紙」というと、折り目を下に真ん中で半分に折って横長にした紙のことを言います。和漢古書における基本的な冊子の装丁は、1枚の紙を山折りもしくは谷折りしたものを、何らかのかたちでかさねて、糸綴じもしくは糊付けし、表紙をつけたものということになりますが、山折りもしくは谷折りする前の最初の段階で、この「折紙」にしたものを用いている場合があります。

折紙を用いた装丁で最も多いのは、折紙をそのまま重ねて右の端を糸で綴じたもので、人によっていろいろな呼びかたがありますが、「長帳綴(ながちょうとじ)」というのが一般的なようです。藤井隆氏は「料紙を一枚一枚縦の寸法の真中から横に細長く二つ折にしたものを、折目を下方にして重ねて揃え、右端を「明朝綴」式に四つ目綴にしたもの」(『日本古典書誌学総説』(和泉書院1991)p69)と、堀川貴司氏は「横長に二つ折りし、折り目を下にして重ね、そのまま右端を下綴した袋綴じ。大福帳やメモ帳などの横長の写本に用いられる。」(『書誌学入門』(勉誠出版2010)p35)と、それぞれ説明しています。
古文書学のほうで「横帳」と呼ばれるものは大部分がこれで、基本的にこのタームで記録してもよいかもしれません。以前ご紹介した「日本古典籍講習会テキスト」では、落合博志氏は「折紙綴(おりがみとじ)」と呼んでおり、「折紙またはその半截を重ねて、端を糸や紙縒などで綴じたもの。帳簿類によく用いられ、「長帳綴」「横帳綴」あるいは「帳綴」と呼ばれることもあるが、一般的な名称としては「折紙綴」を用いるのが適当。連歌や俳諧の懐紙もこの装訂。版本にもあるが、八文字屋本の浮世草子や記録など、特定の種目に限られる。」と説明しています。『日本古典籍書誌学辞典』(岩波書店1999)では「帳綴じ」(p393)として項目立てされています。
なお、上の説明であげられている「八文字屋本の浮世草子」では、「横長の紙を折り目が下(手前側)になるように二つ折りにしたもの」(落合氏)ではなく、短辺と並行に真ん中で半分に折った半紙を使用しています。ですので、林望氏は「八文字屋刊行浮世草子類書誌提要」(『斯道文庫論集』17(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫1980)所収)で、それらについて「横綴半紙本」と呼んでいますが、上と左端が開いたままになる造本の仕方そのものとしては同じということになります。

折紙を用いたものとして、折紙を列帖装(綴葉装)と同じ手順で綴じたものも時々見ることがあります。堀川貴司氏は「折紙列帖装(おりがみれつじょうそう)」と呼び、「両面書写ができない薄手の紙を横長に二つ折りし、折り目を下にして、後は列帖装と同様の手順で装訂したもの。江戸時代の帳簿などに見られます。」(『書誌学入門』p32)と説明しています。
この装丁は、『日本古典籍書誌学辞典』では「双葉列帖装(そうようれっちょうそう)」(p357)として項目立てされていますが、藤井隆氏は「双葉綴葉装(そうようてっちょうそう)」と呼んでおり、「両面書写用の鳥の子紙が高価な所から、(中略)普通の薄い楮紙などを料紙にして、先ず一枚一枚を全部、表面が外側になるように、紙の縦の寸法の真中から、横に二つ折りにする。あとは折目を下方にするだけで、この二つ折になった紙(折目で続いているが、それ以外は二枚―双葉―というわけである)を鳥の子の一枚と思って、普通の綴葉装の通りに扱えば良い。字は紙の表の出たそれぞれの片面にのみ書くことになり、本をめくる時は下方の折目を指でめくるので、折目以外が二枚になっていても差支えはない」(『日本古典書誌学総説』p63)と説明しています。

この綴じ方のヴァリエーションとして、藤井隆氏が「袋帳綴(ふくろちょうとじ)」と呼んでいるものもあります。藤井氏によれば、「近世の商家の判取帳(受取帳)や大福帳に最も多いもの」(『日本古典書誌学総説』p63)ということで、「前述の「双葉綴葉装」と紙の扱いは全く同じで、綴じ方も殆ど同じであるが、書背の方の中央に、ぶら下げるための下げ紐を付ける。従って表紙の題名は、普通の書籍と違って、書背の方から書背の線に対して垂直に書き下すことになる」(要するに本体と文字の縦横が逆)と説明されています。この装丁については「大福帳綴」といった名称が提唱されていたこともあるようですが、上の堀川氏の説明のように、大福帳というものには別の装丁のものも多いので、以前見た画帖などの場合と同じく、装丁の名称として用いるのは適切でないと思われます。

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