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さらなる混乱は気が引けますが―和漢古書の特殊な装丁(2)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回見た「長帳綴」は、「折紙」を右端で糸綴じしたものですが、折っていない紙をそのまま重ねて右端で糸綴じしたものもあります。きわめてシンプルな造りなので、ふつうにあっておかしくないような気がしますが、実際のところはどういうわけかあまり目にしません。この装丁について、堀川貴司氏は「単葉装(たんようそう)」と呼び、「紙を折らずに一枚のまま重ねて紙縒で綴じたもの。両面使用。厚手料紙を用いた仏教関係の書物などに稀に見られます。」(『書誌学入門』p35)と書いています。落合博志氏も、「日本古典籍講習会テキスト」で「単葉装 一枚の紙を重ね、端を糸や紙縒などで綴じたもの。ジャンルに関わりなく見られる。」と説明しています。なお、藤本孝一氏は「列帳閉」という古注の用例にもとづいて「列状装」と呼んでいます(『日本の美術 No.436古写本の姿』(至文堂2002)p54)が、これはどうしたって「列帖装」とまぎらわしく、あまり適切とは思われません。

「単葉装」という呼称は「(折っていない)単独の紙葉を冊子にしたもの」ということで、きわめてわかりやすいと思いますが、これに一対になるような「双葉装(そうようそう)」という呼称が提唱されている装丁があります。これは落合博志氏が「紙の用い方は粘葉装と同じであるが、糊を使わず糸や紙縒などで綴じたもの。管見では天台宗や浄土真宗など仏書の例が多い。」(「日本古典籍講習会テキスト」)と説明しているものですが、しかしこの装丁を「双葉装」と呼ぶことにした理由については、今ひとつピンとこないものがあります。
落合氏によれば、「1 枚の紙を二つ折りにしたものが 1 単位で、それが 2 丁(2 葉)になる」から「双葉」というタームを用いるということなのですが、しかし縦に二つ折りした紙を使うというそのこと自体は、「単葉装」および折紙を用いた冊子以外のすべての冊子に共通することです。一方で、前回見たように、藤井隆氏などは横に二つ折りにした「折紙」を用いたものにこの「双葉」というタームを使っており、混乱を招きやすいように思います。
谷折りした紙の折り目と折り目とを重ね、「粘葉装」のように重ねた部分を糊付けする代わりに、重ねた部分を糸綴じするこの装丁については、橋口侯之助氏も、「粘葉装の弱点を克服して列帖装になる過程の間」に、粘葉装と同じ折り・重ねで、「糊ではなくノドの二箇所に穴をあけて、そこに組糸を通して綴じる」という「結び綴」があった可能性を指摘しています(『和本への招待』(角川学芸出版2011)p63)。ただ、「結び綴じ」というと、以前見たように、袋とじした紙を重ねた部分に二または四箇所穴をあけて紐などを通して装飾的に結んで綴じた、「大和綴じ」とも呼ばれた装丁を指すとしたほうがよいと思いますので、やはりそれとも違う名称のほうがよいでしょう。

以前、「胡蝶装」について、「粘葉装」と「列帖装」の総称という説明がされることがあるということを書きました。そこで書いたように、紙を数枚分重ねたまま谷折りした一くくり(帖)を複数綴じ合わせる装丁である「列帖装」については、昭和9年に日本書誌学会というところで「綴葉装」というタームが造られており、こちらが使用されることも多いです。ですが、「綴葉」ということそれ自体は、「糊付けではなく糸などで綴じること」のみを示していますので、「綴葉装」というタームをこの「列帖装」の装丁に対してのみ限定的に用いるというのは、ほんらい異論があっておかしくなかったような気がします。
経緯から言って、あくまで日本で「胡蝶装」と呼ばれていたものについて、糊付けによるものを「粘葉装」、糸綴じによるものを「綴葉装」と呼ぶ、という特定の文脈においてのみ用いられるタームと位置づけられるべきかと思いますが、そうであればむしろ、ここで問題にしている「紙の用い方は粘葉装と同じであるが、糊を使わず糸や紙縒などで綴じたもの」のことをこそ、「綴葉装」と呼ぶのが実は適切だったのではないか、と思ったりもするのですが、もう今となってはさらなる混乱を招くだけのような。。。

なお、落合氏は上につづけて、「折紙を用いた「折紙双葉装」もある。双葉装の版本は未見で、折紙双葉装はごく稀に版本の例がある。」と書いています。「横帳」と記録されている写本の書誌の中には、これに該当するものも混じっているかもしれません。上記の私見に即して言えば、これは「折紙綴葉装」と呼ぶのがよいのでは、ということになります。


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なお、昨年度の「「折帖」補論」の記事で、中野三敏氏の説明の解釈に一部誤りがあることに気づきましたので、関係する記事を修正・更新させていただきました。

「折帖」補論(2)
「折帖」補論(3)
胡蝶装と包背装
「折帖」補論(4)
「折帖」補論(5)

どうぞご了承ください。

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