こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前回書いた「絵図」ですが、『絵図学入門』(東京大学出版会2011)という総合的な解説書では、その冒頭で「近代的な地図が一般化する以前、中世・近世に日本列島でつくられた世界や空間についての図的表現」というぐあいに定義しています。すなわち、江戸時代以前の、建物の平面図や道中案内図などをも含んだ、やや広い意味での地図ということになり、一般には「古地図」と置き換え可能な概念として認識されているかと思います。実際、「〇〇絵図」というタイトルで出版されたり筆写されたりしている江戸から明治にかけての地図は山のように存在します。ちなみに「城絵図(しろえず)」と称される城郭図は、軍事機密に属するということで版行が禁じられており、一枚物にしろ図帳にしろ、目にするのはみな写本です。
地図資料はNCRでもふつうの図書や静止画と区別され、書誌データを作成するにあたっての大きな特徴としては、縮尺の情報を記述しなければならないということがあげられます。和漢古書の場合も、一定の縮率で書かれているものもそれなりにあり、タイトル等に「分間(ぶんけん)」とあるものは、実地の測量にもとづいて描かれたものであることを示しています。ただし、縮率自体が明示されていることは多くなく、そうしたものは「地図資料: [縮尺決定不能]」といった具合に記述することになります。
これに対し、一定の縮尺によらずに自由に描かれているものについては「地図資料: [縮尺表示なし]」と記録することになっています。何となく逆のような気がしなくもないですが、NCRではともかくこうなっていますので、間違わないようにしましょう。
実例はそんなに多くはありませんが、「曲尺一寸一分半ヲ以テ道程一里ニ當ツ」とか「壱分十間六分壱町積」とかといった具合に、縮尺がはっきりと記されている古地図もあります。こうした文言はもちろんそのまま転記しておいたほうがよいでしょう。
古地図のタイトルは、絵図本体に題字欄がある場合は、それが最も優先される情報源になります。ただ、畳物の地図の場合は、題簽や袋に別のかたちの書名があることも多く、それらはきちんと記録しておいたほうがよいでしょう。もちろん、序文や凡例といったところにタイトルが記されていることもよくあります。
著者・製図者や出版事項の情報源としては、ちゃんとした刊記があるものもありますが、欄外にひっそりと記されているだけのことも多いです。
古地図については研究者や愛好家も多く、関連書籍もたくさん出ています。ことに、江戸市中を地域ごとに分けて屋敷や道筋を多色刷りで印刷した「切絵図(きりえず)」については、複製もいくつも出されており、それらを手に街歩きをするのを趣味とされる方もおられるでしょう。
近年活発に行われているデジタル化においても、やはり見た目のインパクトの強さから、こうした古地図や絵図の類をまず撮影・公開の対象としていることも多いかと思います。実際、大型の絵図などの場合は、原物の取り扱いもたいへんですし、図の中央に書かれている細かい記述を直接肉眼で見ることがむつかしいといったこともあったりしますので、高精細で撮影しオンラインで公開することは、非常に効果的かつ有意義と言えます。
デジタルアーカイブシステムADEACでも、高精細画像の地図・絵図の類を多数見ることができますし、なかには現代の実測地図との並べ重ね処理をしていたり、地名や事物の説明へのリンクやポップアップをつけていたりするものもあります。こうしたことができるのは、やはり現代のデジタル技術のたまものと言えるでしょう。