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2019年3月29日 アーカイブ

2019年3月29日

合綴本あるある-アイテムレベルの注記(6)

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回、虫損や鼠損について見てきました。虫損か鼠損(そそん)かわからない、あるいは人の手による派手な破れなどについては「破損あり」としておけばよいでしょうし、とにかく汚れがひどくて読むのに支障をきたすようであれば「汚損あり」としておけばよいでしょう。それ以外にも、カビによる黴損(ばいそん)・湿気による湿損(しつそん)・水濡れによる水損(すいそん)・焼け焦げや火災による焼損(しょうそん)など、本を傷めてしまう原因はさまざまあり、長い時を経て保存されてきたものというのは、やはりそれだけ貴重なものだなと改めて感じさせられるところです。

上にあげたような傷みでなくとも、和装本の特性として、綴じ糸が切れたりした結果、本の一部や前後の丁が欠けたりする事態はよく生じます。巻単位で欠けている場合は、以前見たように欠巻(闕巻)の注記をしますが、そうでない場合は「第十五丁以下欠」などというぐあいに記録します。丁付けのない写本などのばあいは、「前欠」「後欠」あるいは「首尾欠」のように注記します。
刊本で破損や欠落があるとき、欠けている部分を補写しているケースもよくあり、ある程度以上あれば「補鈔あり」などと記録します。なお、巻単位あるいは冊単位で欠けているものを別本で補っている場合は補配(ほはい)といい、漢籍では「第2巻用鈔本補配」といった具合に記録したりします。

にも触れましたが、古書は外がわほど傷みやすく、亡失しやすいので、表紙や裏表紙が失われていることはままあり、後人や現在の所蔵者が新しく表紙をつけ直していることもあるかと思います。これについては、「表紙後補」などと記録しておいてもよいですが、まあこれは図書館ごとの方針で注記しなくてもかまわないでしょう。いずれにしろ、原装ではなくほんらいの表紙や裏表紙がないということは、その裏にあったはずの見返しや奥付がなくなっているということになるので、書誌の記録にあたってはだいぶマイナスと言わざるを得ません。
原装・改装ということで言うと、ほんとうに古い本では装丁を改めている―たとえば粘葉装を線装に、巻子本を折本に―こともありますが、ふつうに目にするのは、糸綴じ本数冊をまとめて1冊に綴じなおしているケースです。途中の表紙や裏表紙は廃棄してしまって綴じなおしているのがふつうですので、一見わかりにくいかもしれませんが、だいたい不自然にぶあつかったりしますし、もとの冊の先頭や末尾に蔵書印が捺されていたり、原冊単位での小口書きが残っていたりすることがままあり、注意して見れば気づくことも多いです。こういうのは「原3冊を1冊に合綴」などと記録することになります。記録の順序としては、このあたりはむしろ印記などより前にしてもよいかもしれません。

以上、6回にわたりアイテムレベルの注記について見てきました。これで和漢古書の書誌記述について言及すべきことは、ほぼひととおり触れてこられたかと思います。

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