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和漢古書あれこれ ― 節用集

こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。

前回は漢籍の類書について見ましたが、NDCで032.1だけでなく031.1も「類書」となっている通り、和書でも類書はあります。『日本古典籍総合目録データベース』で「分類」を「類書」で検索すると、65点ほどヒットしますが、「事典」とか「辞書」とかされるものと明確な線引きはしがたいところもあります。
たとえば上記データベースで「事典」としているなかでポピュラーなものとして、中村惕斎(なかむら・てきさい)編の『訓蒙圖彙(きんもうずい)』20巻および寺島良安(てらしま・りょうあん)編『和漢三才圖會(わかんさんさいずえ)』105巻という絵入り百科事典がありますが、後者のモデルとなった『三才圖會』という漢籍は「子部・類書類」に分類される本です。

また、これらと近い性格のもので、「節用集」というジャンルもあります。これはもともと、『下學集(かがくしゅう)』という中世の用語集をもとに作られたイロハ分けの辞書ですが、江戸時代に入ると、巻首や頭書にたくさんの付録がつけられるようになり、そうした構成の通俗用の百科全書を指して「節用集」というようになりました。代表的なものに『合類大節用集』『永代節用無尽蔵』『都会節用百家通』『江戸大節用海内蔵』といったタイトルのものがあります。
形状としては大本1冊で二~三百丁になるぶあついものが多いですが、以前触れた「飛び丁」もしばしば見られます。標準的なスタイルでは、先頭に日本地図や世界地図、絵入の百人一首や三十六歌仙、小笠原流の礼式書や茶道・華道の作法書等々を載せ、武鑑の一部をそっくり収録している場合もあります。
全体の5/1から4/1ほど進んだところに本文の巻頭があり、タイトルはそこから採用します。本文はイロハ分けした後さらに部門分けした辞書になっており、手習い用に行書主体で左側に楷書を添えた「真草二行」のスタイルのものが多いです。上層には年代記や系図、寺社一覧や案内記、往来物などを付載しています。末尾には名乗り字一覧や占い関係の記事などがあることが多く、時に「朝鮮国の文字」といってハングルを紹介していたりなどしています。
「節用集」はこういった具合に、とにかく教養百般を1冊にまとめたものを言うようになり、その意味で往来物とも重なってきます(先日紹介した「往来物倶楽部」にも多数収録されています)。いっぽうで江戸後期には、逆に付録類を取り去った『早引節用集』といったポケット版辞書も盛んに刊行されています。

似たようなものとして、「重宝記(調法記)」というものもあります。これは礼儀作法・家事・家庭医学など日常生活の必要知識をまとめたハンディーな通俗啓蒙書で、こちらもやはり往来物とも重なってきます(実用書一般の総称として使われることもあります)。いずれにしろ、こういった「一家に一冊!」とか「~~便利帳」とかいった具合のものは、やはりどの時代でも高いニーズがあったわけですね。

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