こんにちは。典拠 小松です。
典拠ファイルの出典という項目に注目されたことはありますか?
目立たない項目ですが、これなくしては典拠ファイルが成り立たない、とても大事な要素です。
出典は、典拠ファイルの漢字形、カタカナ形を、どこ(参考資料、図書の情報源など)から採用したかということを示す項目です。
典拠ファイルは、様々な形で出現する個人名や団体名を1つの形(TRC典拠ファイルでは統一形)にまとめて、検索を便利にします。と言うと簡単そうに聞こえますが、この「1つの形」を選ぶのが、典拠ファイル作成で一番大事な仕事です。
例えば、複数の読み方のある日本人。角川書店の創立者の角川源義。TRCの統一形のカタカナ形は「カドカワ,ゲンヨシ」ですが、実は「かどかわ げんぎ」とルビのある図書もあります。
「日本目録規則 1987年版改訂版」では、次のように決まっています。
23.2.1.0(通則)人名は,原則として最初に目録記入を作成するとき,その資料に表示されている形を統一標目とする。
23.2.1.1(著名な著者)著名な,あるいは著作の多い著者については,統一標目は次の優先順位による。
ア)参考資料等において多く用いられている形
イ)多くの著作で一致している形
ア)にある通り、TRCでも参考資料に掲載されているような人名であれば、複数の資料で表記や読み方を見比べ、図書の情報との違い、内部での優先順位や多寡を考慮して統一形を決定します。詳しくはこちら。
図書のルビに「かどかわ げんぎ」とあったとしても
コンサイス日本人名事典 第5版(三省堂 2009年刊)かどかわ げんよし
講談社日本人名大辞典(講談社 2001年刊) かどかわ げんよし
出版人物事典(出版ニュース社 1996年刊) かどかわ げんよし
新潮日本人名辞典(新潮社 1991年刊) かどかわ げんよし
新潮日本文学辞典 増補改訂(新潮社 1988年刊) かどかわ げんよし
日本人名大事典 現代(平凡社 1979年刊) かどかわ げんよし
日本近代文学大事典(講談社 1977年刊) かどかわ げんよし
参考資料を調査した結果「かどかわ げんよし」が優勢であれば、統一形のカタカナ形はは「カドカワ,ゲンヨシ」になります。
統一形:角川/源義 カドカワ,ゲンヨシ
参照形:角川/源義 カドカワ,ゲンギ
統一形をよく知られている形で作成することができました。参照形も作成したので「ゲンギ」で検索することもできます。
ただし、このような場合は典拠ファイル作成の契機となった図書と、実際に作成された典拠ファイルの統一形のカタカナ形が違うわけですから、統一形と参照形のそれぞれに対して、なぜそのヨミになったのか根拠を示す情報が必要になります。
それが「出典」です。
出典には「出典(漢字形)」と「出典(カタカナ形)」の2つがありますが、日本人の場合は、漢字形、カタカナ形を採用した参考資料の名称や、図書の情報源を「出典(カタカナ形)」として残します。
統一形:角川/源義 カドカワ,ゲンヨシ
出典(カタカナ形)コンサイス日本人名事典第5版
参照形:角川/源義 カドカワ,ゲンギ
出典(カタカナ形)標・奥・背・表・標裏・クレジット
このような出典であれば、統一形は参考資料から採用したけれども、図書には別の読み方があったということがはっきりとわかります。
出典が役立つのは、参考資料から統一形を採用した場合だけではありません。
統一形:最賀/スミレ サイガ,スミレ
出典(カタカナ形)標・奥・背・表・標裏・クレジット
参照形:最賀/スミレ サイカ,スミレ
出典(カタカナ形)著者紹介
上記のような出典であれば、最初の図書に「サイガ~」の読みがあり、その後「サイカ~」とある図書を確認したということがわかります。複数の読み方を使っている、もしくは読み方を途中で変更したのではないかという推測が可能です(誤植、誤入力の可能性もなきにしもあらずではありますが...)。
現代の作家など、参考資料類に掲載のない著者は、出典は図書(標・奥・背・表・標裏、著者紹介、コピーライトなど)になります。最近はWebでも信頼のおける情報が得られるようになったので本人や所属先のHPが出典になることもあります。
また、どこからも読み方が採用できなかった場合は万策つきて推定となり、次の図書でルビがふられていることを期待して資料昇格を待つ形になります。
典拠経験者が見れば、典拠ファイルの作成の事情は、出典から8割がた推測できるといっても過言ではありません。
出典はまさに縁の下の力持ち。
典拠ファイルをご覧になって「どうして統一形はこのヨミ(表記)になっているのだろう」と疑問が湧いたら、ぜひ「出典」をご覧ください。