四書五経のセット-和漢古書の書誌作成単位(1)
こんにちは。AS 伊藤です。主に和漢古書を担当しています。
前回まで、和装本を収納する容器についていろいろ書いてきました。複数冊をひとつの容器に収納するのは、もちろん多巻物のケースが多いですが、それぞれが固有のタイトルを持つセットものというケースもあります。
和漢古書においては、物理単位で1冊ごとに書誌作成するのは不適切で、タイトル単位で作成するべきということは、これまで何度か述べてきましたが、今回からはこの「和漢古書のセットもの」の書誌作成単位について述べてみたいと思います。
和漢古書は現代書と比べれば、シリーズやセットといった書誌階層構造を有する本は、割合としては圧倒的に少ないのですが、無論ないわけではありません。「○○叢書」とか「○○全集」とか言った上位シリーズを有する図書も時々出てきます(ただし、これらのタイトルのものがつねにシリーズになるというわけではありません)。
そうしたもののほかに、よく目にする和漢古書で、多くの場合最初からセットものとして刊行され、当然そのように扱ったほうがよいものが2種類あります。「大学・中庸・論語・孟子」の「四書(ししょ)」と、「易経(周易)・書経(尚書)・詩経・春秋・礼記」の「五経(ごきょう)」です。この2つは、儒教の根本的な経典であり、中国でも日本でも、学問といったらまずこれらを学習することからはじまります。
もちろん、これらの個々のタイトルが単行されていることも無いわけではないにせよ、和刻本でも、何十種類もの「四書」「五経」のセットが刊行されています。そしてふつうは、書誌記述の情報源となる見返し・奥付は、セット単位で付されており、したがってセットの途中にあたる「中庸」や「論語」などにはそうしたものはまったくないのがふつうです。
それでは「四書」「五経」をタイトルとして書誌を作成し、「論語」などは内容著作とすればよいかというと、それもどうかというところがあります。和刻本では多くの場合、題簽の書名などは「改正訓点易経」「改正訓点書経」といった具合に、巻頭の書名とは別のかたちのものになっています。そうすると、内容著作の別タイトルを1書誌の中で全部記述するのでは非常に見にくい書誌になりますし、といって無視するのはもちろんそれはそれでよくありません。
何より、これらのセットが全巻揃って出てくるとは限らず、しばしば1タイトルだけが残っていたりします。こうしたものは、当然そのタイトルで書誌を作成することになりますから、まったく同じ本でもセットで残っているかどうかで全然とらえかたが違ってくる可能性があるわけです。
冊子目録の場合はそれでもあまり問題ないですが、詳しい書誌記述がなされうるオンラインデータベースにおいては、基本的にやはり「大学・中庸・論語・孟子」「易・書・詩・春秋・礼記」のそれぞれのタイトルの単位で書誌を作成し、「四書」「五経」は上位のセットの書名とする、というのが適切な処理だろうと思います。
ただし、「四書」「五経」そのものはともかく、その解説書や注釈の場合などは、1書誌にまとめたほうがよい場合もしばしばあります。こうした場合は、「四書朱子本義匯參 大學3巻中庸6巻論語20巻孟子14巻」などという具合に記録し、NACSIS-CATのように個々の巻冊次を記録する必要がある場合は、巻冊次として「大學巻之上」「孟子巻之13-14」などと記録することになります。
こうした「四書」「五経」については、出版事項や訓点者は全巻で共通することになりますが、まったく手つかずの状態で書庫にあると、これらの本は得てしてばらばらに置かれていたりします。その際、出てきた順番にそのまま作業してしまうと、ほんらいセットものとしてまとめられるはずのものが、出版事項不明の書誌としていくつも作られてしまう、ということが起こりがちです。
ですので、和漢古書の整理をする際は、このあたりのジャンルの図書は、まずタテヨコの大きさや表紙の色、版面の具合や蔵書印などで、セットになるものがないか確認し、まとめるべきものは先にまとめた上で書誌作成にとりかかる、という段取りを踏むことを、強くお勧めします。
「四書」「五経」のほかよく目にするセットとしては、漢籍では儒教の「十三経注疏」(易・書・詩・周礼・儀礼・礼記・春秋左氏伝・春秋公羊伝・春秋穀梁伝・論語・孝経・爾雅・孟子の注釈)、兵学の「武経七書」(孫子・呉子・尉繚子・六韜・三略・司馬法・李衛公問対)、和古書のほうでは「神道五部書」(御鎮座次第記・御鎮座伝記・御鎮座本記・宝基本記・倭姫命世記)「十巻章」(菩提心論・即身成仏義・吽字義・声字実相義・弁顕密二教論・秘蔵宝鑰・般若心経秘鍵)などがあります。こうしたセットに収録されている、ここにあげたような書物については、整理する際にとにかく、もともとセットで出ていたのではないかとまず確認してみたほうがよいでしょう。